歴史や宗教という1つの大きな物語を、国家や宗教などびコミュニティーに属している人は共有しているが、そこに属している個人は同時に、それぞれ生活上の小さな、個人的な物語を所有している。
この作品は、大きな物語と小さな物語のズレや、共鳴を表現しようと試みたものである。
8つのスピーカー、8個の打楽器(スネア、タンバリン、バスドラム)、1 組のドラムセット(スネア、シンバル、バスドラム)、 ディスプレイによって映しだされ たゲームによって構成されている。
鑑賞者はスピーカーに囲まれた中心のドラムセットで、ディスプレイに表示されたゲームを行う(図2)。このゲームは所謂「音ゲー」である。
画面にはLeft(左手・スネア)、Right(右手・シンバル)、Foot(足・バスドラム)、のパラメータが表示してある。顔のマークが左から右に移動していき、上側の矢印の下に顔が移動した瞬間にそれぞれ対応する楽器を叩くと、◯のマークが表示され(赤い円)、ポイントとなる。と同時に、スピーカーから流れる音響が変化する。このポイントが貯まるとSTAGEと書いてある下の表にある棒が時計式に回転していき、一周するとSTAGE1はSTAGE2へ、STAGE2が一周するとゲーム終了となる。
スピーカーから流れる音響はサイン波で作られた音階であり、それぞれスピーカーの前に置かれた打楽器の振動数に対応している。スピーカーから発せられたサイン波により、打楽器の膜が振動する。この振動が一番大きく見られる周波数を基音とし、その1オクターブ上との間で平均律を作った。
8つの打楽器はそれぞれ振動する周波数が異なるので、この場には8種類の平均律が流れており、それに反応して8つの打楽器が共鳴している。この8種類の音階のどこを演奏するかは中心のゲームの結果によって決まる。
このことにより個々人の小さな物語(8種類のドラムが作り出す音響)と、1つの大きな物語(鑑賞者が行うゲームが作り出す物語)の関係性の表現を試みたのである。